カレイに寄生するアニサキスという線虫が、食中毒の原因になることをご存じでしょうか。適切な調理で安全に食べられるこの寄生虫は、カレイの刺身を作る際に特別な注意が必要です。
カレイの刺身が珍しい理由、アニサキスによる食中毒のリスク、対策について以下で詳しく解説します。
カレイの基本情報
「カレイ」とは、英語でFlounderと呼ばれる魚の一種です。100グラムあたりのエネルギーは95kcal、糖質量は0.1gとなっています。
カレイの特徴と種類
カレイは、ヒラメ目カレイ目に属する魚で、日本では北海道から九州にかけて広く生息しています。日本国内には40種類以上のカレイがおり、地域によって様々な名前で呼ばれています。
一般にカレイとされる中には、「マコガレイ」や「アイドカレイ」など、体の右側に目を持つ種類が含まれます。これは左側に目を持つオヒョウとの違いで「左のオヒョウ、右のカレイ」ということわざもあります。
また、カレイの名前の由来には複数の説があります。
一つは韓国の「カラエヒ」からきたという説、もう一つは日本語で「裂いた魚」を意味する「片割魚(かたわれうお)」から来たという説があります。
カレイはフライやムニエル、煮物など多様な調理法で楽しまれますが、刺身としては珍しい存在です。その理由については後ほど詳しく述べます。
カレイの旬はいつ?
カレイの旬は7月~8月にかけてで、この時期のカレイは身が締まり旨味が増す一方、2月~5月の間は「カレイの盛期」とされており、この時期のカレイは身が柔らかくなり、旨味が減少しますが煮物に向いています。刺身として楽しむなら、夏以降がおすすめです。
カレイの主な産地
カレイの主要な産地は、宮城県、青森県、北海道などの東北地方です。カレイの種類によって旬の時期は異なりますが、一年中どこかで獲れることが多いです。
カレイに潜む寄生虫のリスク
生で食べられるカレイには、食中毒のリスクを持つ「寄生虫」が潜んでいることがあります。これらの寄生虫は、魚が死んだ後も内臓や筋肉に生存し続けることがあり、そのまま食べると食中毒を引き起こすことがあります。
カレイに寄生する主な寄生虫は「アニサキス」と呼ばれ、これを摂取すると激しい腹痛、嘔吐、下痢などの重篤な食中毒症状を引き起こす危険があります。
カレイに潜むアニサキスによる食中毒リスクとは?
アニサキスは魚が死んだ後も生き続ける寄生虫で、生の状態で摂取すると下痢や腹痛などの食中毒を引き起こす可能性があります。カレイは生で食べる機会は少ないですが、アニサキス寄生虫のリスクには注意が必要です。カレイの危険な食べ方には、刺身や寿司が含まれます。
これらは新鮮ならば生で食べられますが、アニサキスの混入リスクがあるため、通常は魚を先に冷凍して寄生虫を殺す処理が必要です。さらに魚が非常に新鮮な場合は、寄生虫が内臓から筋肉に移動する前に調理することで、安全に食べられる可能性があります。
なぜカレイの刺身は珍しいのか?
カレイが刺身や寿司としてほとんど提供されない理由にはいくつかあります。
カレイの味は比較的マイルドで、肉質が柔らかすぎるため、噛んだ時の食感がしっかりしておらず、刺身や寿司に向かないとされています。カレイの近縁種であるオヒョウの刺身は存在しますが、ヒラメ自体の肉質や味が異なるため、生食にはあまり人気がありません。
カレイに潜むアニサキスの見分け方
アニサキスは魚の体内に潜む重要な寄生虫の一つで、人間の体内に入ると様々な食中毒症状を引き起こす可能性があります。アニサキスは海洋哺乳類の体内で生じ、その生活環は卵から始まり、海洋宿主の排泄物と共に海に放出されます。
アニサキスの幼虫は海中で変態し、最大で3センチメートルまで成長します。最初は小型の甲殻類や動物プランクトンに寄生し、その後食物連鎖を通じて寄生サイクルを繰り返します。小魚がこれらを捕食し、大きな魚が小魚を捕食することで、最終的に人間がこれらの魚を食べる際にアニサキスを摂取するリスクが生じます。
アニサキスは半透明で白色の糸状の構造をしており、人間の体内では約1週間生存します。幼虫の大きさは2~3センチメートル、成虫は6~10センチメートルに成長し、サバやアジ、サンマ、サケなど多くの海産物に含まれています。
アニサキスの識別方法
アニサキスは白色の半透明で見つけにくいですが、幼虫は体長2~3センチメートルと大きく肉眼で確認が可能です。白身魚の中では迷彩されているため識別が難しいですが、赤身の魚肉ではより目立ちます。
アニサキスが多く見られる部位は?
アニサキスは主に魚の内臓、筋肉組織、卵に寄生します。魚の内臓に好んで寄生し、魚が死ぬと筋肉組織に移動する傾向があります。
人間は通常魚の内臓を生で食べないため、魚が新鮮なうちはアニサキスを摂取するリスクは低いですが、時間が経つと筋肉組織に移動しそれを食べることで摂取するリスクが高まります。アニサキスは魚卵にも含まれることがあります。
カレイに潜むアニサキスが引き起こす食中毒の原因とは?
アニサキスによる食中毒はなぜ起こる?
アニサキスによる食中毒は、アニサキスの幼虫が人間の胃や腸の壁に侵入することで発生します。この侵入によって起こる胃の上部や腸の激しい痛みと嘔吐は、アニサキス症として知られています。
アニサキスによる症状の種類と発症タイミング
アニサキスによる症状には以下の種類があります。
【急性胃アニサキス症】
食後数時間から数日で胃上部の激しい痛み、吐き気、嘔吐が発生することがあります(最も一般的)
【急性腸アニサキス症】
摂取後数時間から数日で重度の下腹部痛や腹膜炎の症状が現れることがあります(まれ)
【胃腸外アニサキス症】
非常にまれですが、寄生虫が消化管を侵入し体の他の領域に移動する場合があります
【アニサキスアレルギー】
アニサキスのたんぱく質成分に対するアレルギー反応で、腹痛や蕁麻疹などが起こることがあります
- 注:アニサキスアレルギーはアニサキス症とは異なります
アニサキスによる症状の発生確率
アニサキスによる食中毒の発生確率は非常に低く、1,000万人に1人の確率で発症すると言われています。これは国民全員が週に1度刺身を食べると仮定した場合の、年間約7,000人のアニサキス感染症報告数に基づく推計です。
したがって全人口(約1億2,500万人)が週に1回生魚を食べ、年間7,000件の発症があった場合発症確率は約90万人に1人となります。
カレイに潜むアニサキス感染を予防する6つのステップ
アニサキス感染を予防するための信頼できる方法として、以下の6つのステップが挙げられます。
- 新鮮な魚を選び、内臓をすぐに取り除く
- 幼虫の存在を目視で検査する
- 食べ物をよく噛んで食べる
- 生魚(刺身)の摂取を制限する
- 魚を-20℃で少なくとも24時間冷凍する
- 70℃以上で調理する
アニサキス感染を防ぐ主な要因は鮮度、調理、冷凍です。アニサキスは適切な加熱または冷凍によって死滅し、死後の摂取では健康に害はありません。新鮮な刺身や寿司は美味しいですが、予防のために事前に冷凍することでアニサキスを確実に死滅させることができます。
また、アニサキスを殺すために必要な特定の温度に注意することも重要です。
アニサキスを確実に退治する2つの方法
アニサキスを効率的に除去するためには、凍結と加熱処理の2つの方法が最も確実です。
冷凍処理では、マイナス20℃で少なくとも24時間保管することによりアニサキスを完全に死滅させます。
加熱処理では、70℃以上で加熱するか、60℃で1分間加熱することで、アニサキスを効果的に除去できます。
冷蔵庫と真空調理の際の注意点
アニサキスを除去する際には、冷凍と加熱処理が効果的ですが、いくつか注意すべき点があります。
家庭用の冷蔵庫や冷凍庫の温度ではアニサキスを殺すのに十分ではありません。
また流行の真空調理法では、アニサキスを完全に死滅させる温度に達しない可能性があるため、注意が必要です。
食中毒やその他の健康上の問題を防ぐためには、信頼できる予防方法を適用することが重要です。
カレイに潜むアニサキス摂取後の適切な対処法
病院での内視鏡検査を受けましょう
アニサキスによる食中毒が発生した場合、病院に行くと消化器官に侵入した寄生虫の位置を確認するための内視鏡検査が行われます。アニサキスが引き起こす粘膜の穿刺による激しい痛みのため、医療処置による寄生虫の除去が一般的に行われます。
自宅での対処法
アニサキスによる食中毒であっても、必ずしも病院へ行く必要はありません。
アニサキスは通常体内で1週間以内に死滅するため、痛みが軽い場合は自然治癒を待つこともできます。市販の胃腸薬や鎮痛剤の服用により、アニサキスによる下痢や痛みを軽減することができます。
総括
この記事の要点は以下の通りです。
- カレイにはアニサキスという寄生虫が寄生している可能性がある
- アニサキス食中毒の症状には腹痛、下痢、嘔吐などが含まれる
- カレイは生食には適していないが、適切な処理によりアニサキスを無害化できる
- カレイを刺身で安全に食べるためには、事前の冷凍が有効である